ファインダーは追憶の小窓

写真が好き。だれでも気になる小さなことや奥深いこと。そんなことを皆さんと一緒に考えて写真について深めてみたいと思います。

Planar(プラナー)というレンズ。

Planarというレンズをお聞きになったことがある方も多いかと思いますが、このレンズは特に日本では最も人気の高いレンズの一つだと思います。
そこで、受け売りな部分もありますがPlanarについて少々お話してみたいと思います。


そもそもCarl Zeiss社でPlanarが発明されたのは1896年のこと。
数学教師を目指しつつZeiss社に入社した数学者であるパウル・ルドルフがその発明者です。
単純なダブルガウスタイプをベースに、三日月形の凹レンズを2枚組み合わせることで、像面湾曲を平坦にすると同時に大口径化を容易にしたのがPlanarでした。
ちなみに「Planar」という名称は「平面(平坦)」という意味から由来しているそうです。

                                     

                                          Planar T* 50mm F2 ZM(ライカM用)

 

実に今から100年あまりも前に発明されていたPlanarですが、レンズ枚数の多さに伴う反射面の多さから当時の技術では内面反射によるフレアの発生を抑えきることが困難だったために、優れたポテンシャルを持ちながらもZeiss社内ではほとんど製品化されることはありませんでした。
むしろ1930年代にレンズの大口径化をZeissと競っていた(というよりもZeissに振り放されないようにしていた)Leitz社によってSummarやSummitarといったPlanarに似たダブルガウスタイプのレンズが発売されていました。
この頃は、Leitzはまだまだ技術面でZeissのレベルには及ばず、むしろ技術的に優位だったZeissとしてはシャープな描写で安定した性能を有したSonnarをF2やF1.5と大口径化する選択肢を選んでいたのです。
まぁ逆に言うと、Leitzは大口径化の難しいSonnarやTessarタイプのレンズよりも、大口径化しやすいPlanarタイプを選ぶという、ある意味では“安直”な方法を選ばざるを得なかったわけです。

その後、レンズ製造技術が進歩すると同時にレンズ設計にも電算機が取り入れられるようになった第二次大戦後以降、PlanarはRolleiflex 2.8Cに搭載され、再びこの世に登場することになります。
そして、HasselbladにもPlanar80mmF2.8が採用されるに至り、ついにPlanarが本格的に名レンズとして様々なマウントで人気を博するようになりました。


特に日本でPlanar人気が高いのは、甘美な描写が日本人の美的感覚にマッチしているためではないかと自分なりに想像しています。
SonnarやTessarも素晴らしいレンズですが、Planarと比較すると基本的にはシャープですしコントラストも高い。
欧米でむしろTessarタイプのレンズの方が人気があるのは、やはり国民性の違いに起因する美的感覚の違いではないかと思うのです。
また、例えばRolleiflex(D~F型)ではPlanar搭載モデルとXenotar搭載モデルがあります。
いずれもダブルガウスの派生型レンズではあるものの、Planarよりもシャープな写りのXenotarの方が欧米では好まれているのもやはり感覚の違いの現れでしょう。

日本においてPlanarの名声を一気に高めたのは、CONTAXヤシコン)のPlanar T*85mm F1.4の存在が大きいと思います。
今でも、Planarといえば85mmF1.4を連想される方が多いくらいです。
最高のポートレートレンズとして多くのフォトグラファーに愛用されたこの名玉は、現在でもCONTAX時代とほぼ同様のレンズ構成でコシナから発売されていますし、EOSユーザーであればマウントアダプターをかませてそのまま楽しむことも可能です。

                                              

                                                       Planar T* 85mm F1.4 ZE(キヤノンEF用)

 

あくまでも個人的な印象ですが、自分が今まで使った中で好んでいるのがCONTAX Gマウントの45mmF2。
このレンズは現代の設計によるPlanarではありますが、レンズ構成は“オリジナル”に非常に近い。
また、開放値も必要以上に欲張っていないこと(=設計に無理がない)もあってか、とても素直かつ柔らかな描写が楽しめます。

また、このレンズは現代のミラーレスカメラだとマウントアダプターを使って使用できるため、中古で程度の良いものを探して撮影を楽しむこともできます。

                                         

                                                           CONTAX Planar T*45mm F2(G)


ちなみに、僕自身はいわゆる“Planar信奉者”ではありません。
ただEFマウントのPlanar50mmF1.4を購入した後に、その時持っていたEF50mmF1.2USMの写りが面白くなくなって売却してしまったことからも、その写りには感服しているという自覚はあります。
なんとなく人気が一人歩きしているような感もあるレンズではありますが、その実力は折り紙つき。
Carl Zeiss社の高い技術力を誇るレンズの一つとして、これからもPlanarの存在感が薄れることはないでしょう。