ファインダーは追憶の小窓

写真が好き。だれでも気になる小さなことや奥深いこと。そんなことを皆さんと一緒に考えて写真について深めてみたいと思います。

明るいレンズ?

「明るいレンズ」とよく言いますが、これはだいたいF2.8とかF2よりもF値が小さい大口径レンズのことを指しますね。
確かにF値が小さいほど光量が確保されるので「明るいレンズ」とは言い得て妙なんですが、昔は大口径レンズのことを「ハイスピードレンズ」と呼んでいました。
(今でも一部ではこう呼んでいる向きもあります)

昔々、フィルムの感度はASA100未満の低感度フィルムが主流でした。
現代ではISO400くらいでも常用感度ですが、そんな高感度フィルムは無かった頃の時代です。
ASA100くらいのフィルムが一般的になってきたのが今から60年くらい前でしょうか。
そんな時代、少しでも暗い場所で撮影を可能にするためには、レンズ自体を大口径にしシャッタースピードを稼ぐ必要があったわけです。

だから大口径レンズは「ハイスピードレンズ」。
個人的には「明るいレンズ」と言われてもなんとなく「ああなるほど」としか感じないんですが、「ハイスピードレンズ」と言われると目的がハッキリしてとてもイメージしやすいと思っています。

 

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銀座にて(GR1sで撮影)

 

今から40~50年位前までは、ツァイスがトップクラスの技術を有しており、当時では世界最速のSonnar 50mm F1.5という優れたハイスピードレンズを作っていましたが、同じ頃ライツなどではせいぜいF2くらいがハイスピードレンズの限界でした。今のようにF1.4がごろごろしていて一部にはF1.1とかF0.95なんていうハイスピードレンズがあるなんて、スチルカメラ用レンズとしては考えられない時代だったと思います。

カメラ先進国であったドイツをはじめとする欧米では元々そういう事情で大口径レンズが開発されていったわけですが、日本のメーカーの技術力が高まりついには逆転したころ、大口径レンズによる「ボケ」という表現が好まれてきます。
以前にもお話したことがあるかもしれませんが、「ボケ」という概念は日本発信の写真技法であり、今では欧米でも「Bokeh」という言葉そのままに伝わっていますが、欧米で「Bokeh」が伝わったのは少なくとも2000年以降ではないかとも言われているくらい、海外では新しい概念なんですね。
そもそも海外のフォトグラファーの名作でBokeh写真が一切見当たらないことからも、志向の違いがよく分かると思います。

   ツァイスの代表的なレンズ「プラナー 

まあ、欧米と日本の差はともかく。

写真において最もボケを好むのは日本人であり、そういう意味ではボケを作りやすい明るいレンズ(大口径レンズ)に対する羨望が生まれたのだろうと思います。
一方で、本来的には大口径レンズは「ハイスピードを稼ぐため」に開発されたものであり、そのことを念頭に置くと、現代の高感度性能に優れたデジタルカメラでは無用な大口径レンズは本来的には不要ではないかとも考えられるわけですね。
もちろんこれは“そもそも論”であり、ボケを楽しむためにはより大口径レンズの方が有利ですから、大口径レンズをまったく不要と考えるのは非現実的だとも思います。
ただ、個人的にはデジタルカメラであればF2くらいの大口径レンズで、もう必要十分だと思ってはいます。

どれくらいの「明るいレンズ」が欲しいのか。
それは個人個人の趣味や考え方の差によって様々だと思います。
とはいえ、そもそもF値の小さい大口径レンズがどういうニーズによって開発されてたのかという経緯を知っておくことは、レンズ選びの際のひとつのヒントになるかもしれませんね。

 

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